糖尿病の最新治療


糖尿病は1921年にインスリンが発見されるまでは1年以内に死亡する「死の病」と恐れられていました。
それから90年が経ち、最近画期的な糖尿病治療薬が相次いで発売されました。
それは血糖依存性にインスリン分泌促進作用のあるDPP-4阻害薬(ジヤヌビア®、グラクティブ®、ネシーナ®など)と腎臓での尿糖排泄を促進する事により、血糖低下作用を発揮するSGLT2阻害薬(スーグラ®、フォシーガ®など)です。
なぜこの2種類の薬が画期的なのかというと、従来の薬の多くが膵臓のβ細胞を刺激する事によりインスリンの分泌を促進する薬でしたので、かえってβ細胞が疲弊してしまい、糖尿病が悪化するという現象が起こっていました。
ところが新たに登場した上記の2剤は間接的に、β細胞を守る働きがある事、低血糖を起こす事が少ない事、肥満になりにくい事など多くの優れた効果が確認されています。
軽症の糖尿病の患者さんの多くが、上記の2剤のどちらかの薬の内服と食事療法、運動療法を行う事により、良好な血糖のコントロールが可能です。
あと当院では内服薬とともにインスリンの自己注射を早期に併用するようにしております。
(これをBOT療法と言います。)
インスリンは大変に優れた薬剤で糖尿病の初期に使うと疲弊したβ細胞が活性化してインスリンの分泌が回復し、注射から離脱出来る患者さんも多数いらっしゃいます。
と言ってもインスリン注射に抵抗のある患者さんが多いのも事実です。
それは「インスリンは重症者が使うものだ。」とか「障害者みたいだ。」などの偏見がある為のようです。
今のインスリン注射器は大変良く出来ており、ボールペンのような形をしていて、ダイヤルを回して腹部に押し付けるだけです。
針は糸のように細く、痛みは殆どありません。
むしろ水を必要とする内服薬より簡単です。
当院では持効型インスリンのランタス®を最初は4単位を1日1回注射から開始し、血糖値が下がらない場合は1週間に2単位ずつ増量していき、血糖値が安定したら増量をストップします。
最近発売された持効型のインスリン、ランタスXR®はさらに効果の持続時間も長く、しかも安定した血糖値が持続し、低血糖も起こりにくくなっています。
日本では強化インスリン療法と言って、インスリンを頻回注射する方法がよく行われていますが、海外では殆ど行われていません。
というのは強化インスリン療法を行うと確かに血糖値は安定しますが、肥満が進行してしまい、却って心血管系の合併症が増えてしまうというデータがあるからです。
私はこのような患者さんの場合、まずSGLT2阻害薬を併用します。
すると肥満も進行せずに血糖値も安定する方が多いです。
糖尿病を放置すると、血中の高濃度のブドウ糖が血管内皮のタンパク質と結合する糖化反応を起こし、有名な3大合併症である糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害などを発症し、失明、人工透析、下肢の壊疽などの悲惨な状況に陥る事もあります。
また糖尿病があるとがんや心筋梗塞、脳梗塞を発症する確率が高くなる事も知られています。
平成27年12月に北大医学部出身で私の3年後輩の牧田善二先生が、廣済堂出版から出版した「糖尿病になっても100歳まで長生きできる」を読んで大変感銘を受けました。
その著書の中で特に注目したのは、降圧剤のミカルディス®、アルドクトンA®、セララ®が糖尿病性腎症に劇的な効果を示し、人工透析を回避出来る患者さんも多いと書かれていました。
実は当院でも、これらの降圧剤は高血圧症や糖尿病、CKD(慢性腎臓病)の患者さんにしばしば処方されていた薬剤でしたので、大変参考になりました。
糖尿病は症状が出現した時には、膵臓のインスリン分泌能力は正常時の半分以下に低下しており、しかも年齢を重ねる程悪化していき、完治する事はありません。
また糖尿病と診断されても約4割の患者さんが全く治療を受けていなかったり、受けても中断していたりしています。
最近は糖尿病の治療も劇的に進歩しています。
牧田善二先生も「糖尿病はもはや恐ろしい病気ではなくなり、長生きも出来るようになりました。」と著書の中に書いています。
糖尿病と診断された患者さんは、決して放置せずに治療に参加して頂きたいと思います。