肛門の病気というと、すぐ思い浮かぶのは
痔核(いぼ痔)だと思われますが、実は最も多いのは肛門周囲の接触性皮膚炎と肛門掻痒(そうよう)症です。
皮膚炎や掻痒症の多くが便の付着が原因となっています。
便の中には、アルカリ性の消化液が多く含まれていますので、腸粘膜以外の皮膚に触れますと、すぐにかぶれ(皮膚炎)を起こします。
赤ちゃんや老人がおむつ皮膚炎を起こすのはこの為です。
対策としては、肛門の周囲に便が付着したらすぐ洗い流す事が大切です。
シャワートイレで洗い流す事も有効ですが、水流が強過ぎると却って肛門周囲の皮膚に傷が付きますので逆効果です。
治療としては、弱いステロイドが含まれたエキザルベ軟膏®の外用などが有効です。
強いステロイド軟膏を連用すると、カンジダなどの感染症を誘発する危険性が増すので勧められません。
次に多いのは痔核(いぼ痔)です。
日本人の2人に1人は痔核を持っていると言われています。
痔核の正体は、肛門管内の静脈のこぶ(静脈瘤)です。
痔核の脱出の程度によって
Ⅰ度 肛門外に脱出しないもの
Ⅱ度 排便時に脱出するが自然還納(中に戻る)する もの
Ⅲ度 排便時に脱出するが、用手的な還納(指で押し込む)が可能なもの
Ⅳ度 常に脱出しており、用手的な還納が不可能なもの
の4段階に分類されます。
痔核の治療としては、ヘモナーゼ配合錠®などの内服や、強力ポステリザン軟膏®やプロクトセディル坐薬®などの外用、疼痛が強い時は、局所麻酔剤が配合されたボラザG®の坐薬または軟膏が有効です。
痔核が常に脱出しているⅣ度になりますと、硬化療法や結さつ切除術などの手術が必要になります。
肛門の病気で次に多いのが裂肛(きれ痔)です。
原因としては、便秘などで硬くなった便が通過する時に、肛門管上皮が切れる事により発生します。
肛門の後方(時計の針で6時の方向)に生じる事が多く、排便時の激痛と出血が特徴です。
治療をしないで放置すると裂創が潰瘍化し、激痛のために排便困難となる事もあります。
治療としては、まず食事療法や下剤などで便秘をコントロールする事、入浴などで局所を温める事、排便時にいきまない事などが重要です。
内服治療や外用療法は痔核の治療と同様に行います。
裂肛が慢性の潰瘍化した場合には、時間はかかりますが、自然治癒が多い為、殆どの場合手術は不要です。
肛門の病気で次に多いのが痔瘻(あな痔)です。
痔瘻(じろう)は肛門周囲膿腫(うみが集まって溜まった状態)が自然に破れて膿が出た後に、膿の通路が残ってしまうのが原因です。
症状としては、肛門周囲の疼痛、硬結、発赤、腫脹、膿の排出が何年も続くのが特徴です。
痔瘻の場合は、内服治療や外用療法は無効で手術が必要です。
以上、肛門に多い病気について述べてきましたが、最後に重要な注意点があります。
日本人は肛門の診察を、羞恥心などから極端に嫌う方が大変多く、市販薬で治療している方が殆どです。
もし肛門からの出血が長く続いている場合は、必ず肛門科か外科の病医院を受診して下さい。
「痔だと思っていたら、実は直腸癌であった。」という事がよくあります。
当院では必要な方には直腸鏡検査(直腸や肛門の内視鏡検査)をいつでも予約なしに実施可能です。